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名古屋高等裁判所 昭和47年(ネ)315号 判決

控訴人 名古屋汽船株式会社

右代表者代表取締役 福井武雄

右訴訟代理人弁護士 本山亨

同 那須国宏

同 近藤堯夫

被控訴人 石井英明

右訴訟代理人弁護士 山上益朗

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人と控訴人との間の名古屋高等裁判所昭和三七年(ネ)第三〇二号仮処分申請事件について、同裁判所が昭和四〇年九月二九日なした仮処分命令は、これを取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同じである(ただし、原判決七枚目表一行目に「認容」とあるのを「認否」と訂正する。)から、これを引用する。

≪以下事実省略≫

理由

控訴人が海運業を営む会社であり、昭和三六年五月一八日、被控訴人を甲板員として雇用したこと、控訴人が同年八月一九日、被控訴人に対し臨時雇用期間満了の理由で解雇する旨の意思表示をしたこと、被控訴人が控訴人を債務者として名古屋地方裁判所に対し同庁昭和三六年(ヨ)第一一三一号地位保全の仮処分命令の申請をし、右申請は却下されたこと、被控訴人が、これを不服として控訴し、名古屋高等裁判所昭和三七年(ネ)第三〇二号事件として係属したこと、しかるところ、同裁判所は昭和四〇年九月二九日臨時雇傭期間満了を理由とする解雇は無効であるとして、一審判決を取り消し、控訴人は、被控訴人を、仮に従業員として取扱い一一六〇円および昭和三六年八月二〇日から、一か月一万四〇〇〇円の金員を毎月末日限り支払えとの仮処分判決を言渡したこと、その後、控訴人が昭和四〇年一一月二日、被控訴人に対し、その本訴において主張するとおりの理由により、解雇の意思表示をしたこと、右意思表示が同月一三日、被控訴人に到達したことは、当事者間に争いがない。

控訴人の本件申立の要旨は、控訴人のなした昭和三六年八月一九日の解雇通知により控訴人と被控訴人との間の雇用契約が終了しなかったとしても、該雇用契約は右名古屋高等裁判所の仮処分判決の言渡された後である昭和四〇年一一月二日の右第二次解雇の意思表示により終了したものである。従って、右仮処分命令については民訴法七五六条、七四七条により仮処分の事情に変更があったものとして、その取消を求めるというのである。

しかしながら、≪証拠省略≫によれば、名古屋地方裁判所は、昭和四七年五月三一日被控訴人を原告とし控訴人を被告とする本件仮処分事件の本案訴訟において、控訴人がその被控訴人に対してなした臨時雇用期間満了を理由とする解雇は有効であり、しからずとしても昭和四〇年一一月二日の本件解雇により被控訴人はその地位を失った旨主張したのに対し、そのいずれの解雇の意思表示も無効であるとの理由で、被控訴人が控訴人の従業員の地位を有することを確認し、控訴人は被控訴人に対し、五一四万二七七四円と昭和四五年九月一日から毎月末日限り八万五八八六円を支払えとの被控訴人全部勝訴の判決を言渡したことを認めることができる。しかして、控訴人が右判決を不服として控訴し、現に名古屋高等裁判所において係争中であることは、当裁判所に職務上顕著である。

ところで、事情変更による仮処分の取消とは、仮処分が被保全権利および保全の理由に対する疎明のみによって発せられる本案判決確定までの暫定的処分であることから、仮処分の要件がその後消滅した等仮処分を存置させておくことを不当とする事情が新たに発生した場合にこれを取り消すことをいうのであるが、前認定のように、本案訴訟において控訴人が本件申立において主張する解雇の意思表示が無効であると断定せられ、被控訴人が控訴人会社の従業員たる地位を有することを確認する被控訴人勝訴の判決の言渡があったような場合には、本件係争の仮処分を存置する必要性はますます増大しこそすれ、これが減少したとする所以は全く見出すことができないのである。従って、本件においては、仮処分を取り消すべき事情の変更があったものということができない。

してみれば、控訴人の本件申立は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものとして、却下を免れないものでありこれと同趣旨に出た原判決は理由において異なるけれども結局相当であるから、本件控訴は棄却さるべきものである。

よって、訴訟費用の負担について、民訴法九六条、八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本聖司 裁判官 吉川清 川端浩)

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